2025年4月の標高改定とジオイド2024

最近、富士山をはじめ、いろんな山の標高が高くなったとか低くなったといったニュースを見聞きします。

これは、2025年4月1日に改定される標高成果によるものです。2025年4月1日をもって、日本の標高はより精密なジオイドモデル「ジオイド2024 日本とその周辺」に基づいたものに移行します。

そもそもジオイドってなんなん?

ジオイドは、地球の重力による位置エネルギーの等しい面です。重力の等ポテンシャル面は一様ではありません。

例えば:

地殻の中に何らかの巨大で重い物体があった場合、その真上では真下に重力が働きますが、その周辺では真下ではなく物体の方へ引っ張られ、斜めに重力がかかります。結果、重力の等ポテンシャル面は物体を中心に盛り上がることになります。

この様にジオイドは、地殻の厚さ、地殻内の岩石の密度、地表の地形などによっていびつな形となります。(下図の実線⑤がジオイド面で緑の破線②が地球楕円体になります。)
日本の標高の基準となるのは東京湾の平均海面ですが、この面を陸地に延長していくと上記の理由により等ポテンシャル面に沿っていびつな形となります。


MesserWoland - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, 
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1230159による

ジオイドモデル2011

構築方法

ジオイドモデルは、人工衛星による重力測定、地上重力、海上重力など様々な測定方法による重力値を組み合わせて構築されます。このように作成されたモデルが「重力ジオイド」です。

標高は、「楕円体高ージオイド高」で求めることができますが、ここで問題が発生します。標高は、水準原点(東京湾の平均海面+24.39m)を起点に水準測量によって測量されています。水準測量は起点から離れるほど誤差が累積しますし、測量に膨大な時間がかかり明確な元期を定めることができません。必然的に「楕円体高ージオイド高」で求めた結果との違いが発生します。

ジオイド2011では、重力ジオイドを衛星測位と水準測量により実測したジオイド高に合わせこんでいく事で、「楕円体高ージオイド高」で標高になるようにジオイドモデルが構築されています。(これを、「ハイブリッドモデル」と呼んでいます)

出典:国土地理院ウェブサイト
https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoidmodeling.html

ジオイドモデル改定の背景

水準測量を使用した標高決定の場合、上記の通り誤差が発生しますし、長年の地殻変動で累積した標高成果のズレを改定しようにも測量に莫大な時間がかかり、そう頻繁に実施することができません。

大地震が発生した場合の成果改定についても、衛星測位を使用すれば、より迅速に実施できるという必要性も出てきました。それで、より精密なジオイドモデルに基づいた標高成果に移行することになりました。

標高改定とジオイド2024

ジオイド2024の構築方法

ジオイド2011の基となっている重力モデルは「JGEOID2008」です。既存の地上重力値の大半は1970~80年代に測定されたもので、近年の大規模な地震の影響が反映されていない、重力測定が困難な地域で空白域がする・・・などの問題がありました。より高精度な重力ジオイドを構築するために、航空機を使用した航空重力測量を2018年度から実施し、ジオイド2024の構築に活用されています。

ジオイド2024は「ハイブリッドモデル」であるジオイド2011と異なり、重力データのみを用いて構築した「重力ジオイド」となります。地殻変動や水準測量の累積誤差が含まれないモデルです。

ジオイド2024 日本とその周辺
出典:国土地理院ウェブサイト
https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoidmodeling.html


標高成果の改定

2025年4月1日をもって、国土地理院の管理する電子基準点・三角点・水準点の標高成果は改定されます(測地成果2024)。標高成果は衛星測位などを基盤とする最新の値へ改定され、楕円体高とジオイド高から標高を算出できるようになります。

併せて、標高の元期も2024年6月1日となります。今までの元期(東日本では2011年、西日本と北海道は1997年)から累積している地殻変動分が改定量に乗ってきますので、楕円体高も改定となります。

離島の取扱い

離島(トカラ列島以南、八丈島以南)については、東京湾平均海面からの高さを標高とはしておらず、各島独自の平均海面からの高さが標高となります。ジオイド2011では、それぞれの島で標高に整合する様にモデルを合わせこんでいました。

今回の改定では、ジオイド2024とは別に「基準面補正量(東京湾平均海面と離島独自の平均海面の差)」といった形でデータが提供されます。

4月1日以降、どうすればいいの?

国土地理院の管理する電子基準点の成果が改定されますので、電子基準点を利用した位置情報も影響を受けます。具体的には、VRS等の補正情報配信業者から配信されるデータが変わってくるのです。測量の場面によって異なった対応が必要になってきます。

新しい標高成果に整合させたい場合

GNSS受信機(コントローラ)や計算ソフトウェアに「ジオイド2024」を導入すれば、観測した楕円体高とジオイド高(ジオイド2024)から新しい標高値を得ることができます。

これまでの標高成果に整合させたい場合

4月1日に改定されるのは、地理院の管理する電子基準点・三角点・水準点のみです。そのほかの公共基準点の改定は順次行われるものと予想されます。しばらくは新旧の標高成果が混在した形になります。

旧標高成果に整合した結果を得たい場合、「ジオイド2011」使用すればそれでOK・・・とはなりません。配信される補正情報の基となっている電子基準点の楕円体高が改定されているからです。たとえ「ジオイド2011」を使用して測量したとしても、4月1日を境にVRS方式での測位結果は変化します。

従って、補正(つまりローカライズ)が必要です。4月1日以降に現場内の基準点をVRSで観測し、観測座標と旧成果座標を基にローカライズパラメータを算出。座標変換を行う事で、これまでの成果に整合した標高を得ることができます。

4月1日以前にローカライズさせて回していた現場についても、配信される補正情報が変化しますので、出てくる値が変わってきます。4月1日以降に改めてVRSで基準点を観測し、ローカライズパラメータを再計算する必要があります。

離島はどうする?

離島(トカラ列島以南、八丈島以南)については、別途「基準面補正量(東京湾平均海面と離島独自の平均海面の差)」のデータが提供されます。それらのエリアで、新しい標高成果(測地成果2024)に整合した標高を求めたい場合は、基準面補正量も併せて差し引くことになります。

標高=楕円体高ージオイド高ー基準面補正量

Hi-Target GNSS受信機の対応

ジオイド2024と基準面補正量を統合したデータを提供しますので、それを適用すれば離島を含め全国でシームレスに使用することが可能です。

当社がHi-Target・GNSS受信機向けに提供している、ネットワーク型RTKの帳票ソフトについては、ソフトウェア改修が終了次第、ユーザーに案内する予定です。